40数年間も探し続けてきた幻の書、ベルツの『日本鉱泉論』を遂に入手したことは以前にこのコラムで報告した。
その数年前から古書蒐集をそろそろやめよう。お金が続かない、根気も続かない。そう考えていた矢先に、まるで先方から『日本鉱泉論』が私の手許に転がり込んできたのだから、「もう、これでよし」と決心したはずだった。
ところが半世紀以上古書を蒐集してくると、そう簡単には蒐集癖をすぱっと断ち切ることはできないようだ。まるで他人事のようだが、「走行中の車が急ブレーキをかけてもすぐに停止できないのと同じ」などと言い訳をしたくなるのだから、我ながら呆れる。
貴重な古書、玉造温泉の温泉誌に出会う
ここ1、2か月で購入した古書の内、温泉本を抜き出して、驚いたからである。『箱根温泉誌』(明治30年刊)、『豊後温泉誌』(明治41年刊)、『須川温泉記』(明治25年)、『大別府案内』(大正10年)、『伊豆修善寺温泉案内』(大正5年)、『上乃山温泉案内』(大正12年)、『温泉の山形』(昭和5年)、『訂正 青根温泉志』(明治30年)、『出雲玉作温泉誌』(大正2年)、『新関温泉小誌』(明治44年)、『岩手県鉱泉案内 䑓温泉記』(明治24年)。

点数が大幅に減ったとはいえ、それでも結構買ったものだ。しかも『上乃山温泉案内』、『出雲玉作温泉誌』、『新関温泉小誌』の3点を除いて、すべてすでに所蔵している書籍だった。これもこれまでの習性だった。
値段が特別に高価でないかぎり、珍しい書籍は同じ物を複数購入するようにしていたのである。昭和の初期の書籍だが、敬愛する温泉医学者、西川義方の25点ほどの書籍は全て3、4冊所蔵しているだけでなく、特に愛読している西川のある書籍に至っては20冊も同じ物を”保存”しているといった具合である。奥付に2500冊印刷されたと記載されているが、現存しているのは何冊なのだろうか?