売れに売れた、モノクロ252ページの温泉ガイド

今週でこのコラムは50回目の節目となるる。何を書こうか思案した。
33年前の夏の終わり、1987年8月25日に印刷会社を持つ札幌の小規模出版社から『湯けむりの旅 北海道』という、口絵の16ページを除き252ページが全てモノクロという今日ではちょっと想像しがたい温泉ガイド本を出した。親会社は印刷会社にもかかわらず出版社の方では、「カラーではコストがかさむので白黒でいこう」と考えた結果にちがいない。出版されて初めて、カラーではないことに著者の私が分かったのである。
ところが取り上げた温泉が”北海道”に限定されていたにもかかわらず、売れに売れたのである。編集者が「どうしてこんなに売れるのか分からない」と何度も首を傾げたことだけは、30年以上経過した今でも鮮明に覚えている。
たまたま私の手元にあった本に、「1987年8月25日初版発行、1987年9月9日5刷発行」とある。僅か2週間で5回も印刷されている。2、3日に1回の割で増刷され、書店からの注文に応えられない状況にあったことが容易に想像できる。編集者が首をかしげるのも、今となれば納得がいきそうだ。これまで約150点の単行本を出版してきたが、こんなにバカ当たりした本は私の長い著作生活の中でも数点であった。