一般庶民といえば、まだ物見遊山の旅がおいそれと認められなかった時代。幕府や藩から旅に必要な通行手形が得られるのは、社寺・仏閣への参詣、参宮などに限られていました。信仰心に根ざした社寺や霊山詣では、神聖な宗教行為であるため、むげに禁止できなかったようです。
その最たるものが伊勢参宮、いわゆる“お伊勢参り”で、慶安3(1650)年、宝永2(1705)年、明和8(1771)年、文政13(1830)年の「おかげまいり」(伊勢神宮への民衆の群参)の際には、当時の人口の10%を超える、300万から400万人もの人達が参詣していたといいます。
もっとも、この伊勢参詣はいわゆる隠れみので、お伊勢さんを口実に遊興の旅、今でいう観光旅行を楽しむという一面もあったようです。そう考えると、江戸時代にはすでに比較的自由に旅ができる環境にあったともいえます。
温泉健康楽 第4回 「 湯治という名のヴァカンス 」
