〝経験温泉学〟による予防医学の実践

後藤艮山(こんざん)を始めとする医学者たちが科学的な温泉の効用を説き始めた約300年前の江戸中期から、日本人は本格的に湯治と向き合うようになりました。
湯治は医学が未熟な時代、無くてはならない医療の一分野を担っていたことは紛れもない事実でした。しかもわれわれの先人たちは、温泉を単に医療の場としてだけではなく、すでに”予防医学”の場としても活用していたのです。
もちろん当時は予防医学という言葉はなかった。ですが、昔から「白骨の湯に3日浸かると、3年風邪を引かない」とか、「去年は忙しくて湯治に行けなかったので、今年はどうも体調が思わしくない」というような言葉をよく耳にしたものです。これなどは、経験に則った予防医学の最たるもの。”経験温泉学”と言うべきものなのです。