“主治湯”で抵抗力のある体を維持

私は温泉浴によって、心身ともに病気に罹りにくい抵抗力のある体を維持することを信条としてきた。
そのために複数の温泉を、自分の主治医ならぬ”主治湯”、”副主治湯”と決めた。温泉を健康維持のために積極的に活用し始めて以来、過去30年以上、5~6年に1度程度、外科や眼科など単発的に病院のお世話になった以外は、「医者要らずの生活」をしてこられたのは至極幸運なことであった。内科医のお世話になった記憶はない。ちなみに私は団塊の世代である。
1泊2日、3回の入浴で白血球が適正値に
なぜ日本人は湯治で丈夫な体になっていたのか、ここ30年ほどの医学界の動向などから、ようやく分かってきたことが多々ある。科学万能時代に生きる現代人からすると少し頼りない、かつての経験に則った”経験温泉学”は、科学的な”実証温泉学”のステージにようやく移行したと考えている。
私どもの温泉療養効果の実証結果はこの『“温泉教授”の毎日が温泉.com』サイト内でも紹介してきたが、今回は他の研究者の結果に少しふれておきたい。日本の文化である”湯治”の効用を、現代医学と結びつけて、いかに有効であったか説明したい。
金沢医科大学の教授だった山口宣夫博士(血清学)は、1泊2日で3回、それぞれ20分程度の温泉浴でも、白血球の数や働きを適正値に調整するうえで効果があると発表している。
私たちの体の免疫機能と密接に関係するのが、血液中の白血球である。加齢にしたがって、白血球の数は減少し免疫力は低下する。
一方で多すぎると、病気の要因にもなる。白血球には、ウイルスやバクテリアを食べる顆粒球(かりゅうきゅう)などの防御細胞と、抗体をつくってウイルスを攻撃したり、がんなどの異常細胞を排除するリンパ球、それに体内に侵入した異物をかじって敵の性質を判断するマクロファージがある。
“プチ湯治“、“通い湯治”での効果を実証
新潟大学医学部教授だった安保徹博士(免疫学)によると、顆粒球が約60%、リンパ球が約35%、マクロファージが約5%から成り立っている。免疫の主役であるリンパ球を支配するのは「休むときに働く」副交感神経で、健康な人ではリンパ球の割合は35~40%だという。

山口博士は20~65歳の健康な男女126人の入浴前と入浴後の血液中の白血球の数と働きを調べたところ、顆粒球が過剰な人はリンパ球が増え、リンパ球が過剰な人は逆の現象を示し、顆粒球とリンパ球の割合が適正値に近づいたと報告している。しかもこの効果は帰宅後、約1週間も持続することが判明した。
私たちの山口県俵山温泉における実証実験でも、顆粒球、リンパ球が適正値に近づくことを確認している。3泊4日の”プチ湯治”と週2回3か月の”通い湯治”のモニター検証によってである。
日本の生活歴に組み込まれていた湯治の習慣
特に江戸時代以降、日本人は1週間単位で3~4週間湯治するのが習わしであった。それを年に2回行うのが一般的であった。明治時代には東京より米どころの新潟県の方が人口が多く、昭和の高度経済成長期ごろまでは、日本の人口の大多数はまだ農村や漁村にあったから、湯治は日本人の生活暦にしっかりと組み込まれていたと考えてもよいだろう。
湯治がまだ盛んだった昭和30年代に東京大学医学部の大島良雄教授(内科学)によって行われた調査では、4週間の本格的な湯治を終えた後の生体リズムは、半年から1年間も持続されていたという。脈拍、血圧、血糖値、自律神経系、ホルモン系、免疫系等のことである。
ちなみに大島良雄博士が活躍したころは、わが国で西洋医学が飛ぶ鳥を落とす勢いで隆盛を極めていた時代と重なり、温泉医学者としての才能を存分に発揮することは叶わなかったと私は理解している。事実上、大島博士は、江戸時代の後藤艮山とその一番弟子・香川修得に始まったわが国の温泉医学の最後の学者だったと、私は評価している。
主題を戻そう。白血球の機能を適正にするには、温泉浴と適度な運動が最適で、家庭風呂ではこのような効果は得られない。ましてや最近のシャワーでは温熱効果さえ得られない。
本物の温泉で3泊前後のプチ湯治を行い、その間ウォーキングなどを組み合わせると、その効果は1か月近くに及ぶのではないかと思われる。