‶温泉の良し悪しは成分”とした原雙桂
香川修徳と同時代、江戸中期の温泉医学者に原雙桂(はらそうけい)がいます。雙桂は香川修徳の温泉論に対する最初の批判書『温泉考』(寛政6年=1794年)を書いた人物でした。
雙桂は修徳やその師、後藤昆山(こんざん)に対して、「温泉の善し悪しは温度ではなく成分である」と正しく反論しているのですが、残念なことに『温泉考』が刊行されたのは雙桂没後27年目のことだったため、両者の論争には至りませんでした。
ちなみに後藤艮山は江戸中期随一の高名な医学者で、またわが国で最初の”科学的”な温泉医学の先駆者としても知られています。香川修徳は200人以上の弟子を擁していた艮山のNo.1の高弟で、わが国で最初の温泉医学書を書いています。修徳は現在でいう精神科医でもあり、そのレベルは当時の西洋のレベルに匹敵していたと言われています。原雙桂はこのような医学界の大御所2人に温泉論で挑んだ気骨のある温泉医学者でした。