”温泉教授”の毎日が温泉 第61回 ”都市型温泉”でも、皮膚のアンチエージングは有効か?~「きぬの湯」(茨城県)での実証実験(その4)

紫外線からの酸化を防ぐ抗酸化力を検証する

 顔のシミ、シワ、たるみ、くすみなどの最大の原因は加齢ではなく、紫外線である。くすみの最大の原因は毛細血管の血行不良だが、シミ、シワの影響も受けているといわれる。
 紫外線による老化を”光老化”と呼ぶ。日常的にはいかに紫外線を防ぐかに尽きる。
 引き続き「天然温泉 きぬの湯」で持続的に入浴すると、肌を紫外線による酸化から守る抗酸化力が高まり、張りのある肌を維持するか否かの検証を行った。

独り占めしたくなる露天風呂「檜の湯」(撮影:松田忠徳)

昔から「若返りの湯」といわれてきた温泉

 健康は人類の永遠のテ-マである。多くの女性にとってさらに”美容”が加わる。肌の美しさは若さの象徴でもある。現代日本においても然り。TVのCMではサプリメントと”美肌”、”美白”化粧品の比率は年々高まっているようにも思われる。
 温泉施設はこうした現状を、手をこまねいて見ているだけではすまないであろう。なぜなら長い歴史を振り返ると、日本人には、温泉こそが”健康のサプリメント”であり、”美の源”でもあったからだ。私たち利用者もこのことを再認識する必要があるだろう。
 皮膚は目に見える臓器である。シミ、くすみ、たるみ、シワなどはそのまま見た目年齢に直結する。
 デンマ-クで1,826人の双子の調査をして、「老けて見える人のほうが寿命が短い」という、ある意味ショッキングな研究結果が出た。顔の老けと寿命は関係があるようだ。特に女性がシミ、シワ等にこだわるのは、「いつまでも若々しく、健康的でありたい」という人間としての本能であったにちがいない。
 その意味では、温泉は昔から「若返りの湯」といわれてきただけに、温泉は”美容”、”若返り”という女性たちの永遠のテーマに応えられる天然のサプリメントであった。

入浴と皮膚のpH(水素イオン濃度)とORP(酸化還元電位)

 従来、皮膚の健康度をチェックする主な指標はpHであった。皮膚が弱酸性であることはよく知られている。皮膚から体内に侵入する細菌類等を防ぐためである。ただ注意しなければならないことは、「酸性=酸化」ではないということだ。よく使われる酸性、アルカリ性は酸性物の量(濃度)を表す。酸化の強弱は酸化還元電位(ORP)で表す。
 改めて確認しておくと、酸性とは「酸の性質をもつという意味。もともとは酸味があって、青色リトマスを赤色に変え、水素よりも電気的陽性の金属と作用して水素を発生し、金属酸化物と反応して塩と水つくるという性質をさす。水溶液では、水素イオン指数がpH<7の場合を酸性と定義する」(『岩波理化学辞典』第5版)。
 水溶液中で酸としての働きを持つのはH+̟だから、酸の強弱はH+の量(濃度)で決まる。つまり酸の強さは水素イオン濃度で表すことができる。その数値がよく知られているようにpH値である。水素イオン濃度が濃い状態が酸性。pH7が中性で、これより数値が小さくなるほど酸性が強くなり、逆に大きくなるとアルカリ(塩基)性が強くなる。ちなみにこの値が1違うと、水素イオン濃度は10倍違う。
 健康な肌の適正値は弱酸性であるから、一般にpH4.6~6.0前後の範囲と考えてよいだろう。脂性肌では酸性、乾燥肌ではアルカリ性に傾くことが知られている。石けん、ボディーソープ、シャンプーなどはかなり強いアルカリ性だが、健康な皮膚であれば普通、2、3時間で弱酸性に戻る。また水道水(家庭風呂)に浸かった場合でも、数時間で元に戻ることが確認されているが、不健康な肌の人は戻りにくい。
 皮膚表面のpHが弱酸性を保てず、アトピ-性皮膚炎の人のようにpHが上昇すると、「水分透過性バリア機能が低下し、角層が剥がれ易くなるだけでなく、Th2型の炎症が生じやすくなり、黄色ブドウ球菌が増殖しやすくなる」(大分大学皮膚科、波多野豊講師)。
 ヒトの皮膚は弱酸性だが、同時に”還元系”である。即ち、酸化が鉄(や細胞)を錆びさせる作用だとしたら、還元はその錆びを除き元に戻す作用のことである。皮膚は還元系を好む。
 したがって、塩素系薬剤が混入されている水道水を沸かした家庭風呂や、温泉であっても、濾過・循環方式の塩素殺菌風呂に浸かった後は、皮膚は酸化される。アトピー性皮膚炎等の人に塩素入りの風呂が好ましくないのは、このような理由からである。

湯治モニタ-の皮膚のpHを測定する

 ヒトの皮膚は本来還元系であるが、加齢とともに酸化していく。皮膚のエイジング(老化)である。したがって、老化とは細胞が錆びること、酸化することだともいえる。
 紫外線によって生み出された活性酸素から肌を守るメラニン色素。新陳代謝で角質層はとれるが、紫外線を浴び過ぎるなどで過剰にメラニンが産生され、それが沈着すると色素がシミになってしまう。シワは、肌を支えるタンパク質、コラ-ゲンやエラスチンが活性酸素がもとで一重項酸素によって酸化された結果である。
  
 まず水素イオン濃度(pH)の測定結果を見よう。
 これまで同様に首都圏の「天然温泉 きぬの湯」における実証実験結果である。「週1回通い湯治モニター」は14名、「週2回通い湯治モニター」は13名である。

(1)週1回通い湯治モニター
湯治前が5.55±0.46で湯治後が4.63±0.49と有意な下降(p<0.01)を示した。(有意な下降は理想的)
  
(2)週2回通い湯治モニター
湯治前が5.73±0.38で湯治後が4.56±0.45と有意な下降(p<0.01)を示した。(有意な下降は理想的)

【図表1】「週1回通い湯治モニター」のpH
【図表2】「週2回通い湯治モニター」のpH

 皮膚の酸化還元電位(ORP)を測定する 

(1)週1回通い湯治モニター
湯治前が89±22 mVで湯治後が0±41 mVと有意に減少 (p<0.01)した。(有意に減少するのは理想的)

(2)週2回通い湯治モニター
湯治前が102±22mVで湯治後が7±57 mVと有意に減少(p<0.01)した。(有意に減少するのは理想的)

【図表3】「週1回通い湯治モニター」の皮膚ORP
【図表4】「週2回通い湯治モニター」の皮膚ORP

 以下の【図表5】~【図表8】に、各群のモニターにおける個別データを示す。

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【図表5】「週1回通い湯治モニター」男性個別結果 
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【図表6】「週1回通い湯治モニター」女性個別結果
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【図表7】「週2回通い湯治モニター」男性個別結果
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【図表8】「週2回通い湯治モニター」女性個別結果

 以上のように、「週1回通い湯治モニター」、「週2回通い湯治モニター」ともに、皮膚の酸化還元電位(ORP)が有意に減少することが確認できた。特に入浴回数の多い「週2回通い湯治モニター」のORPは顕著に減少したことが分かる。
 今見てきた結果から、紫外線の活性酸素から皮膚が酸化され、シミ、シワ等が出来ることを防ぐ”皮膚の抗酸化力”が大幅に増強したことを示唆していることが分かる。それは「天然温泉 きぬの湯」が有する抗酸化力の強さが反映されたものと思われる。「外出しているとき、戸外で仕事をしているとき、車の運転をしているとき」、最も紫外線を浴びやすい手の甲の酸化還元電位を測定した結果である。
 モニタ-の湯治前のORP値からも分かるように、ヒトの皮膚は還元系である。皮膚のpHが弱酸性で、かつ還元系にあるということは、もちろん皮膚から細菌類の侵入を防御するためである。

「きぬの湯」での定期的な入浴が皮膚の還元力を大幅に高めた

 「きぬの湯」に定期的に浸かると、日常的に紫外線を浴びる手の甲のORP値が顕著に減少することが確認できた。「週1回通い湯治モニター」は平均で89mVから0mVに還元力が高まったのに対して、「週2回通い湯治モニター」では102mVから7mVと更に高まった。
 「きぬの湯」の源泉は還元力、抗酸化力を有する。その理由は温泉に含まれる硫化物、水素分子、鉄(Ⅱ)イオンなどの還元剤の作用が強いためである。
 このような還元剤は入浴中に単にヒトの皮膚に触れるだけではなく、皮膚の下の結合組織から血液、リンパ液に入り、全身の細胞へ運ばれる。したがって、皮膚の抗酸化力が増しただけでなく、体内に入り、老化、疾病の原因となる活性酸素をも除去、抑制する。
 もちろん皮膚のORP値が低下する、つまり抗酸化力が高まるということは、特に女性の肌にとっての最大の敵である強い紫外線に対する抵抗力が増すということである。
 具体的には肌の酸化を防ぎ、シワを防ぎ張りを高めることであるから、「きぬの湯」は”美肌”にとっても好ましい温泉であると思われる。抗酸化力、一般に言われる”アンチエイジング”能力が高いので、シミ、シワの出来にくい温泉と言うことが可能であろう。

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