”温泉教授”の毎日が温泉 第58回 ”慢性疲労”を防ぐ「活性酸素」を除去する!~”都市型温泉”「きぬの湯」(茨城県)で、温泉療養効果を検証した(その1)

都市型温泉は、都会の人々の健康に寄与するのか

 前回、前々回の2回にわたって、都会のビジネスパーソンのストレスによる”疲労感”は深刻な状況にあることを指摘した。
 目下の私の関心は、首都圏や近畿圏、中京圏などに新たに誕生した温泉施設、都市型温泉が、果たして”疲労回復”に効果的なのか、”都市の人々の健康に寄与するのか”ということだ。首都圏の”都市の温泉”を科学的に検証してみたいと考えるようになった。
 そんな折り、2年前の平成30(2018)年6月上旬から8月下旬までの3か月近くの日程で、つくばエクスプレスで浅草から最寄りの駅「守谷」まで約30分の距離にある茨城県常総市の日帰り温泉施設「天然温泉 きぬの湯」で、温泉療養効果の実証実験を行う機会に恵まれた。既存の温泉地では北は北海道から南は鹿児島まで各地で行ってきたが、”都会の温泉”では初めてのことであった。

浅草から「つくばエクスプレス」で、最寄り駅の守谷駅まで約30分。茨城県常総市の「天然温泉 きぬの湯」の入り口(撮影:松田忠徳)

 ”疲労”の原因である活性酸素が「天然温泉 きぬの湯」でも除去、抑制できるのか否かが最大の関心事であった。活性酸素は疲労だけでなく、”老化”や”万病の元”とも言われている。皮膚のシミやシワの原因も活性酸素である。

20~40代が応募、働く若い世代は疲れている?

 モニターを開始するに当たり、地元茨城をはじめ、周辺の千葉、埼玉、東京などからも応募があり、選考の結果、「週1回通い湯治モニター」に14名(倍率5.5倍)、「週2回通い湯治モニター」に13名(倍率3.5倍)を、性別、年齢などを勘案して選んだ。応募条件は、「通院していないこと」と「定期的に温泉浴をしていないこと」。加えて「温泉療法に関心があること」であった。
 「天然温泉 きぬの湯」に於けるモニター参加希望者には特徴的なことがあった。従来はモニター応募者は60代のリタイヤ組を中心に50~70代がマス層であったが、「きぬの湯」では30代を中心に20~40代の現役世代がマス層となったことだ。地方の県庁所在地の温泉地で実施した場合、「(自宅からの)通い湯治」に若い20代の応募が散見されたが、マス層は「通い湯治」でも「3、4泊プチ湯治」でも、50~70代がマス層であることには変わりなかった。
 茨城の常総市は東京へのアクセスに恵まれた首都圏である。また現役世代がマス層となったということは、こちらの想定以上に「働く若い世代は疲れている」ということがはっきりした。

自宅から週1回、週2回の通い湯治で実証実験

 入浴モニターは実証実験開始前、及び終了時に採血の他、血圧、唾液、皮膚など各種の測定を行った。なかでも疲労や疾病の原因となる”活性酸素”代謝物の増減がポイントである。なお「天然温泉 きぬの湯」は宿泊施設はないため、自宅からの通い湯治のみの実証実験となった。

 血中活性酸素代謝物量の増減を知る「酸化ストレス度測定d-ROMs test(Diacron社Reactive Oxygen Metabolitie)テスト」の結果は、以下の通りであった。

(1)週1回通い湯治モニター
湯治前が323±66 CARR Uで湯治後が305±49 CARR Uと減少傾向 (p=0.11)を示した。(→減少する方が好ましい)

(2)週2回通い湯治モニター
湯治前が350±64 CARR Uで湯治後が308±50 CARR Uと有意な減少(p<0.05)を示した。(→有意に減少するのは最も好ましい)

 単位はCARR U(ユニット・カール)が用いられ、1CARR UはH202(過酸化水素)0.08mg/dLに相当する。

【図表1】「週1回通い湯治モニタ-」個別
【図表2】「週2回通い湯治モニタ-」個別

疲労や老化、及び”万病の元”といわれる「活性酸素」が大幅に減少した!

 疲労、老化、生活習慣病の原因と目されている活性酸素が、約3か月間の湯治後には「週1回通い湯治モニター」では”減少”、「週2回通い湯治モニター」では”有意に減少”した。特に「週2回通い湯治」群では2ランクも改善されるという大幅な”温泉療養効果”を示唆した
 「週1回通い湯治モニター」は湯治開始前の14名の活性酸素代謝物量の平均は323 CARR U(ユニット・カール)で、「軽度の酸化ストレス(321~340)」に分類されていたが、湯治終了時には約6%減の305 CARR Uに減少し、ほぼ「正常(200~300)」に近い「ボーダーライン(300~320)」に改善された
 一方、入浴回数の多い「週2回通い湯治モニター」は、湯治開始前の13名の活性酸素代謝物量の平均は350 CARR Uで、こちらは3ランク目に悪い「中程度の酸化ストレス度(341~400)」に分類されていたが、湯治終了時には約12%減の308 CARR Uと大幅に減少した。2ランクも改善され、こちらもほぼ「正常」に近い「ボーダーライン」域に達した。
 
 1)「週1回通い湯治モニタ-」の検証         
 「週1回モニター」14名中8名は、「正常値」に改善された!

               湯治前     湯治後
「かなり強度の酸化ストレス」  0% →    0%
「強度の酸化ストレス」  14.3% →    0%
「中程度の酸化ストレス」 21.4% →  7.1%
「軽度の酸化ストレス」  14.3% → 21.4%
「ボ-ダ-ライン」    21.4% → 14.3%
「正常」         28.6% → 57.2% 

 モニター14名中、8名が「正常」範囲内に到達した。ちなみにモニターは湯治期間中も、仕事、食事、飲酒、喫煙等は従来通りで、異なるのは週に1度、「きぬの湯」に通うことだけであった。
 
 2)「週2回通い湯治モニター」の検証
 「週2回モニター」13名中8名が「正常」、「ボーダーライン」に!
               湯治前     湯治後
「かなり強度の酸化ストレス」   0% →    0%
「強度の酸化ストレス」   15.3% →  7.7%
「中程度の酸化ストレス」  46.2% → 15.4%
「軽度の酸化ストレス」      0% → 15.4%
「ボ-ダ-ライン」      7.7% → 15.4%
「正常」          30.7% → 46.2% 
 
 健康的な「正常」、及び「ボーダーライン」が5名から8名、全体の61.6%を占めるに至った。湯治開始前には「週1回通い湯治モニター」群より1ランク悪かったが、終了時には同じランクの「ボーダーライン」に至り大幅な改善を見た。

 「週1回モニター」と「週2回モニター」合わせて、27名中、14名のモニターの活性酸素が「正常」範囲内に収まった。この数字は全モニターの約52%を占める。
 これに「正常」に準じる「ボーダーライン」の4名を加えると、全モニターの約67%がほぼ健康的な領域に達したことを示唆する結果を得た。都市型温泉の中でも「”天然温泉 きぬの湯”は、コストパフォーマンスに優れた施設」と言えそうである。

 首都圏の新興温泉でこのような結果を得られたことは非常に注目に値することだろう。都市型とはいえ、決して侮れない温泉もあるということだ。
 なお活性酸素を減らすと、老化のスピードを遅らせ、がんの発症率も下がることが、さまざまな動物実験で確認されていることを付け加えておきたい。

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