改めて日本は”温泉大国”であると思う。
細長い日本列島の至る所にさまざまな泉質の温泉が湧いていることだけを指しているのではない。400年前の江戸時代から明治、大正、昭和初期にかけて、膨大な量の温泉の歴史に残るような温泉関係の書籍、刷り物の類いが発行されてきたからだ。
近代医学の父、唯一の温泉本を探して
温泉関係の書籍を中心に、温泉絵図、温泉番付、温泉地の鳥瞰図の類いを含めると、私個人が所蔵する物だけでも2万点を優に越える。もちろんこの点数は日本で出版された夥しい温泉史料の一部に過ぎないだろう。

これ以上、温泉関係の古書を蒐集する体力、気力、何よりも財力はなく、「重要な温泉の書物はほとんど集めた」と自分に言い聞かせて、これ以上積極的に古書を購入することはほぼやめた。
そう決断するに至ったのは、40数年間、根気強く探し続けてきたドイツ人医師・医学者、エルヴィン・フォン・ベルツ(1849-1913)の幻の著書『日本鉱泉論』の現物が、ほとんど諦めていた昨年の春、急展開で遂に入手できたことであった。
明治13(1880)年に出版された60ページほどのこの薄い本を「100万円以上出してでも入手したい」と真剣に考えた時期もあったほど、思い入れの強い本であった。
江戸時代初期の入手困難と思われた書籍であっても時間が解決してくれたが、『日本鉱泉論』は毎週のように数冊全国の古書店から送付されて来た古書目録やネット目録でも、1度も目にしたことはなかった。