”温泉教授”の毎日が温泉 第43回 『温泉手帳 増補改訂版』の翻訳本が中国からも出版された

中国語版『温泉手帳 増補改訂版』が出版に

今年、北京の中国工人出版社から翻訳出版された『温泉手帳 増補改訂版』の中国版、『日本五星級温泉』

 私の『温泉手帳 増補改訂版』(東京書籍)が今年になって、北京市の大手出版社、中国工人出版社から翻訳出版された。タイトルは『日本五星級温泉』(254ページ)で、表紙に英語でThe Best Selection Of Hot Springs In Japanとある。
 この本は1年前に台北市の台湾最大手出版社グループ、創意市集からも翻訳出版されており、すでに台湾の他でも、香港、マレーシアなどでも販売されている。
 台湾版のタイトルは『大人的旅行 日本温泉 究極事典』(255ページ)である。

温泉ガイドから温泉の科学、歴史、料理まで

 日本語版の『温泉手帳』は2012年3月に東京書籍から初版が出て以来、版を重ね、さらに2017年9月に旧版より26ページ加筆して、『温泉手帳 増補改訂版』(263ページ)として再度出版された。翻訳本の元版はこの増補改訂版である。
 オールカラー本で、前半108ページまでは、泉質分類、泉質別温泉案内、共同湯案内、都市近郊の「かけ流し」温泉施設などで、ここまではガイド本としても十分に使用できるから、外国人にも利用できるだろう。

松田忠徳著『温泉手帳 増補改訂版』(東京書籍)
日本版の『温泉手帳 増補改訂版』のオリジナルはハンディーな新書判

 後半160ページ近くは次のような温泉百科的な項目が並ぶ。温泉の歴史、温泉の起源、温泉の科学的本質、浴槽と風呂道具、温泉と療養、温泉の入り方、現代版湯治指南、温泉建築、温泉宿と料理、温泉みやげ考、温泉と文化、温泉と文学、温泉のことば、温泉朝市、、、。
 これ1冊あれば、日本の温泉を歩くにはほとんど不自由しないだろう。もちろん日本人が、である。なにせ温泉ガイドや泉質から、温泉の科学、医学、歴史、文化、建築、料理まで網羅されているのだから。実際、一般読者だけではなく、日本の編集者やTV制作の関係者にも広く利用されているようだ。

五星=〝最高レベルの温泉〟をタイトルに

 翻訳本をどのようなタイトルにして出版するかは、その国の編集者の腕の見せどころだろう。

昨年、台北の創意市集から翻訳出版された『温泉手帳 増補改訂版』の台湾版、『大人的旅行 日本温泉 究極事典』

 訪日客が1番目に多い中国人も3番目に多い台湾人も、日本の温泉には非常に高い関心がある。5番目に多い香港人もそうだ。
 ただ台湾人の特徴は日本へのリピーター客が非常に多い点だろう。人口は約2400万人で、昨年(2019年)は日本へ約489万人も訪れている。
 しかも、ビザ緩和により中国人の訪日客が急増し始めたのはつい数年前からだが、台湾人は15年ほど前からコンスタントに来日していて、来日経験が4,5回の台湾人はそう珍しくない。私が知っている台湾人は10回前後という人も結構多い。人口約750万人の香港人もリピーターが多い。昨年の訪日香港人は約229万人だった。
 つまり台湾や香港での翻訳本のタイトルを『大人的旅行 日本温泉 究極事典』としたのは、リピーターが多いことを熟知している編集部で”日本通”向けの読者を想定したために違いない。日本版の狙いもそこにあり、本の判型がハンディーで、持ち歩く「温泉の百科事典」であった。もっともこれは著者である私の企画ではなく、100%版元の東京書籍の編集部の企画力であった。
 一方、中国の人口は日本でもよく知られているように約14億人。ここ数年訪日客は急増し、昨年は約959万人も来日したが、まだリピーターは少なく、日本通も限られている。そのためタイトルを温泉ガイド本のように『日本五星級温泉』としたのだと思われる。極めて妥当なタイトルだろう。”五星”、即ち”最高レベルの温泉”という意味である。表紙に英語でThe Best Selection Of Hot Springs In Japanと加えたのも、「さすが」である。

国の勢いが反映された大きな判での出版

 ちなみに日本では大手出版社はどこも新書(新書判)の歴史は長いが、最近では中規模出版社で新書市場へ参入するところが相次いでいる。出版不況のため価格を落とすために違いない。日本での新書の始まりは1938年創刊の岩波新書で、その前年に英国で創刊されたばかりのペリカン・ブックスに倣ったと言われている。
 このように日本では新書は馴染みのある判型だが、経済成長著しいアジア諸国では大型本や豪華本が流れで、彼らには地味な判型は売れないため、『温泉手帳』はオールカラーにもかかわらず、判型は新書なので、中国でも台湾でも大きな判型で出版された。現在の国の勢いが書籍にも如実に反映されていて、昨年私の手元に届いた台湾版を見て、内心ショックだったことを覚えている。判型を大きくすると、もちろん定価を高くすることが出来る。

訪日中国人にはコスパの高い日本の温泉

 中国では、日本が温泉の国であることはよく知られている。経済成長著しい中国では、昭和の終わり頃から日本人が温泉に求めてきたように”癒やし”を求めている。

中国吉林省・長白山温泉「聚龍泉 养生会館」の大浴場(撮影:松田忠徳)

 しかも日本とは異なり、中国では温泉は”勝ち組”のもの、ビジネスの成功者のものだから”五星級温泉”は憧れの温泉と言うことになる。中国人には施設も浴場も豪華なものが好まれる。事実、中国の温泉施設は豪華、華美なものが多く、驚かされる。
 一方、台湾の温泉も豪華な施設はあるが、湯質を重視したものが多い。そのため台湾人の旅行者が日本の秘湯、湯治場などにも馴染むことはそう難しくないようだ。

「聚龍泉 养生会館」の露天風呂(撮影:松田忠徳)

 ちなみに台湾の温泉は戦前に日本人が開発したものが多く、現在でも日本より日本的な雰囲気の温泉があったりして、「はっ」とさせられることがよくある。特に”日式”の温泉では、入浴作法は明らかに昔の日本流が踏襲されていたりして、現代の日本人が逆に学ばなければならないと思うことが多々ある。
 中国では温泉は歴史的に富裕層のものだったから、日帰り入浴でも日本円で5000~10,000円もする。施設は当然立派なものが多い。だから、訪日中国人にしてみれば1泊で何度も温泉に入れ、また食事まで付いて2万円前後で済むというのは、部屋の狭ささえ我慢できればコスパは非常に良いに違いない。中流の中国人には満足度が高いのである。

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