台北市の中心部から車で北へ30分圏内に位置する陽明山は、台北市民の憩いの地として知られる。七星山や大屯山など複数の火山を含む700~1000メートル級の山々が連なる陽明山の一帯は、1982年に国家公園に指定された。
標高1191メートルの七星山の山頂までは、1時間ほどで登ることができる。山頂付近の山肌から噴気が噴き上げ、ここが紛れもなく活火山であることを実感させてくれる。そう、陽明山温泉は日本人も好きな本格的な硫黄泉なのである。
かつての日本統治時代に1000本の桜を植林して以来、2~3月にかけては桜やツツジが咲き乱れる花の名所でもある。また台北の人気夜景スポットとしても知られ、若い人たちに人気がある。ハイキングと温泉浴、そして美食を楽しみに訪れる市民が多いだけに、アクセスにも恵まれており、台湾北部の豊かな自然と触れ合うには格好のエリアと思われる。
ちなみに北投温泉と同じように陽明山の温泉も、日本が開発したもの。
陽明山公園を中核とする温泉保養地として
当時、陽明山は”草山温泉”と称していた。戦前に書かれた温泉案内としては「もっとも完成度の高い」と評価している私の愛用書、『日本温泉案内(西部篇)』(大日本雄弁会講談社、昭和5年刊)に、次のように紹介されている。
大屯火山地帯の七星山と紗帽山との渓谷に位(くらい)し、北投とは姉妹泉の関係にある温泉で、幽遂(ゆうすい)にして眺望に富み、静養地として理想的である。先年、皇太子殿下(今上陛下=昭和天皇)行啓の際、道路を改修し、当時御休憩所だった貴賓館があり、又公共浴場の設(もう)けもある。
北投から草山へ、又草山から士林へかけての道は、風光絶佳にして箱根に髣髴(ほうふつ)たるものがあり、台湾十二勝の一である。
ここから望まれる七星山は海抜1000メートル余、山頂は七峰に分かれて眺望雄大、その西側中腹には竹仔(ちくし。現在の竹子)湖がある。湖畔には桜樹頗(すこぶ)る多く、台湾の吉野山と称される。