”温泉教授”の毎日が温泉 第11回 経験温泉学から実証温泉学へ

 若いときは徹夜続きで疲労感が抜けず、栄養ドリンクで凌いでいた時期もあったが、これといって病気にならずに済んだのは、意識して温泉で自律神経のバランスを整えて来たからだった。
 ところが安保理論を読んで初めて、若い頃からの私の温泉健康法が結果として優れて科学的であったことが確認できたのである。濃い霧の中に現代における温泉の役割がおぼろげながら輪郭を見せた、と感じた。

霧島温泉郷「旅行人山荘」の森の中の露天風呂(撮影:松田忠徳)

 自律神経系は”健康格差”の元となる免疫系と密接にリンクしていたのである。温泉街で生まれ育った私が本能的に「温泉の役割は自律神経系にもっとも有効」と直感し、それを活用しながら生活してきたのは間違いではなかった。私の体はこのことを実証していたが、医学的な根拠は曖昧だった。
 「自律神経が免疫細胞を支配する」安保免疫理論との出合いは、私を本格的に温泉医学へ向かわせる契機となった。それまでの温泉文化学と温泉観光学から、さらに温泉医学が加わることとなった。経験温泉学的に「温泉の医学的な優位性は自律神経を整えること」と実感していたが、それが疾病やウイルスに打ち克つ”免疫力”に繋がるとなると、実証温泉学の道へ進まない訳にはいかなかった。
 ところで最近読んだ精神科医、和田秀樹氏の『「人生100年」老年格差』の中にも、「『健康診断』信仰を捨てる」という項目があった。現役の医師でこのような発言ができるとは意気地のない医師が多い日本では珍しいことで正直驚いた。
 「がんで亡くなる人がいちばん多いのであれば、コレステロールなど制限せず、免疫活性を上げることを考えたほうが日本人の長寿に寄与するはずなのです。(略)日本の健康診断は受ける意味がないどころか、場合によっては有害なことさえあると私は考えています」
 事実、日本では毎年38万人近くもの人ががんで死亡している。毎年100万人が新たにがん患者となっているのだ。
 疾病構造や食生活がまったく異なっているのに、、コレステロールを悪玉とするアメリカの健康論を日本にそのまま導入するより先に、がんの”予防”に本腰を入れるのが賢明というものだろう。心筋梗塞の死亡者はアメリカの10分の1なのだから。

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