温泉を、極める! 第14回 江戸の医学者が指南する入浴法

レジャーから治療学の温泉への回帰

 江戸中期の元文3年(1738)に出版された香川修徳の『一本堂薬選』続編は、わが国最初の温泉医学書であり、温泉論でもありました。
 わが国の温泉との本格的な係わりはもともと治療学から始まりました。戦後、西洋医学一辺倒の日本ですが、一方で温泉に対する国民的関心は衰えるどころかますます強くなっています。事実、三大都市圏を中心とした昨今の”都会の温泉施設”の拡大には目を見張るものがあります。もちろん都会の人々のニーズが高まった結果でしょう。地方都市では、”温泉付きマンション”もかなり増えています。高齢者の欲求の現れでしょう。
 その根底にあるのは健康志向の高まりのようです。戦後のレジャーとしての温泉から、江戸の人々が目指した治療学としての温泉への回帰です。

医師が関わっていた湯治の入浴法

 もっとも現代のように高度に医学が発達した時代では、治療学としての温泉の存在意義は江戸時代からと比べるとはるかに小さいものでしょう。ところが”予防医学”の観点に立てば、むしろ大きくなったとも考えられるのです。
 温泉は江戸時代でも現代でも、手拭い一本で気軽に入ることができますが、もともと病の治療が目的でしたから、医師が係わっていた湯治の入浴法は理に適っているものが多いのです。
 実際、江戸時代に著された入浴法には、現代人が忘れてしまった基本的なものが記されていたりして、思わず膝を打ちたくなるものも少なくない。
 科学が発達した時代に生きながら、私たちは温泉旅行や湯治療養に際して、1日に何回入浴したらよいのかすらよく分からない。温故知新。時には江戸期の書物に謙虚に学ぶことも必要かもしれない。

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