徳川家康の時代、「温泉に行く」と言えば、すなわち湯治に行くことでした。とくに天下泰平の文化文政年間になると、一般庶民もこぞって湯治場へ行くようになります。
では、温泉利用の原点ともいえる湯治はいったい、いつ頃から始まったのでしょうか?
“湯治”の文字が最初に出てくるのは、西川義方『温泉言志』(1943年)によると、藤原頼長の日記『台記』と言われています。
その久安3(1147)年2月11日の条に、「今日から湯治を始める。1日2度の入浴とする。風邪を防止するためである」とあります。ただ、2月16日の条に「潮湯を始める」とあることから、ここでいう湯治は温泉ではなく、水と潮湯に入るという、以後、戦国時代まで続いた習わしと同じもののようです。
温泉を使った最初の湯治はというと、『新古今和歌集』の選者でもある鎌倉時代の高名な歌人・藤原定家の日記『名月記』に、「木崎湯治」という言葉が出てきます。木崎とは、現在の兵庫県・城崎温泉のことです。志賀直哉の名作「城の崎にて」の舞台となった古湯ですね。
温泉健康楽 第2回 「 温泉DNA 」
