北国に暮らす者にとっては、”春の雪”ほど穏やかな気持ちで雪景色を眺められる機会はないと思われる。
今年のように暖冬で、雪の少ない年は珍しかったが、それでも3月の下旬になっても、4月に入ってからも寒の戻りは幾度となくあり、そう容易(たやす)くは桜の季節を迎えさせてはくれない。
〝春の雪〟に、北国ならではの気持ちを知る
同じ雪でも、11月や12月の雪となると、さらなる冬本番へ身構えさせる。真冬の1月の雪はあと1か月続くのか、1か月半なのか、昼間でも氷点下の真冬日が続く中で、早く暦が3月に替わることをひたすら願う。
雪が降らない日が年に5か月程度しかない札幌で、雪が実に美しい結晶を持つことを再発見したり、仰ぎ見る雪山の雄大さに北海道に暮らすことの誇りを心底感じられたりするのは”春の雪”だと、感じ入る歳になってきた。
春先の大雪が消えるのは時間の問題だから、安心して素直にその美しさにこころときめかせたり、感動できたりもする。このような気持ちはもしや、北国に住む者にしか理解できないことなのかも知れない。
滅入る気持ちに灯火をかざす4月の雪景色
そのような雪景色を温かい湯に浸かりながら、愛でることができた。じつに幸せなひとときであった。
暦が4月に替わって早々、札幌郊外の定山渓温泉に湯けむりを上げる名宿「ぬくもりの宿 ふる川」の浴場でのことだ。