俗化されず、湯質レベルも極上の‶奥塩原”
久しぶりにわが国を代表する大温泉郷、塩原温泉の最深部に湯けむりを上げる元湯温泉「秘湯の宿 元泉館」に泊まってきた。
箒(ほうき)川沿いに下流から、大網、福渡(ふくわた)、塩釜、塩の湯、畑下(はたおり)、門前、古町、中塩原、上塩原、新湯、元湯の11湯が連なる。これらを総称して塩原温泉郷と呼ぶ。塩原温泉の玄関口、大網温泉の「湯守 田中屋」から、最深部の元湯温泉「元泉館」までは15キロもある。一口に塩原といっても、文字通りの大温泉郷なのである。
元湯の開湯は、徳一大師が温泉を発見したといわれる平安時代の大同元(806)年にまでさかのぼる。歴代の宇都宮藩主が元湯で湯治をし、藩の庇護のもとに会津西街道の宿場として栄えた、との史実がにわかには信じがたい静寂境に現在の元湯温泉はたたずむ。

近年、元湯温泉と近くの新湯(あらゆ)温泉は‶奥塩原温泉郷”と称している。大型ホテルがひしめく巨大な塩原温泉郷のなかでも、奧塩原はもっとも俗化されていない。そのうえ湯質のレベルも昔ながらの‶極上”を維持しているだけに、私もこの呼称には賛成しており、意識して‶奧塩原”の呼び名を使用してきた。