”温泉教授”の毎日が温泉 第37回 ”温泉の未来”は若い人たちの感性にある~桜舞う豊平峡温泉から(上)

 世界中でコロナ騒動に右往左往していても、自然は確実に巡ってきてくれた。
 札幌の街中ではゴールデンウィーク中に昨年より2、3日遅れで桜が開花し、北の都の人々を安堵させた。有り難い。改めて自然の力に感謝である。

巡りくる春に〝平凡〟の幸せを思う

豊平峡温泉の春の競演。萌葱色をバックに桜も梅もツツジも咲いた(撮影:松田忠徳)

 北海道だけでなく、日本列島に桜が開花しなかったなら、2月以来の気の遠くなりそうな、いつ終わるとも知れないコロナ騒動の中、私たちの心は砂漠のように乾ききっていたに違いない。
 特に数ヶ月間も雪に埋もれる北国に住む者たちに、春は桜の花とともにやってきて、いつも新たな”励まし”や”希望”を与えてくれる。毎年のように巡ってきてくれる春であり、桜であるが、”いつものように”、”いつも通り”であることがいかに難しいことか、はたまた”平凡”であることが、実はいかに幸せなことであったかを、今年ほど実感させられたことはなかった。
 ウイルスも含めて、自然界との”共存”でしか生きられない私たちは、このことに気づかなければ、今後も間違い続けてしまいかねない。改めて人類は自然界の一構成員である。とりわけ日本人は古来、自然に対して特別な感情移入をしてきた民族なだけに、地球上の立派な自然体系の構成員であったと私は考えている。だが、AI時代を前に私たちは奢っていなかったのか。

静まりかえった温泉街に咲き、散った桜

 自然の賜物である”温泉”に目を転じると、多くの温泉施設では湯を塩素という自然界にとって脅威でしかな薬品漬けにし、それを川へ、海へ垂れ流し、自然に負荷を掛け過ぎてはこなかったのか。
 いつも”当たり前”のように入浴できた温泉が、当たり前には入れなくなる事態が身のまわりでも起きた。ゴールデンウィークから私のホームグラウンドである定山渓温泉も営業自粛に入った。”いつも”なら、春休み中の定山渓温泉は家族連れや若い人たちで賑わう華やかさがあったが、今年は湖底のように静まりかえっていた。
 それでも温泉街では桜の花々が見事に咲き誇った。残念なことはそれを愛でる人がほとんどいなかったことだ。桜は”粛々と”開花し、何事もなかったかのように散り始めた。命を継ぐための次のステップへ進む。お見事である。

外国人がいなくなった豊平峡温泉に出かける

 定山渓温泉の奥の豊平峡温泉に出かけた。4月以来3週間ぶりだった。
 「先生、最近よくいらっしゃいますね」と、若いB支配人はいつものように笑顔で迎えてくれた。
 「免疫力を活性しておくためにね」と、私はすかさず答えた。
 「そうですよね。さすがですね」と、支配人は相好を崩した。
 「うちの温泉は最高ですからね」と、付け加えることを怠らないのは、若いとはいえ、さすが国際的な人気温泉の支配人である。

風情ある豊平峡温泉の大浴場。200万都市札幌の”秘湯”を髣髴とさせる(撮影:松田忠徳)

 浴場へ向かう前に、いつものようにカレ-のナンを注文する。なにせここに入浴のためにではなく、カレ-だけを食べに来る客も少なくないのだ。私からすると、「豊平峡の湯に浸からないで帰るとはもったいない」と言うことになるのだが、カレ-通にはそれくらいカレ-がイケルということなのだろう。
 支配人に指摘されて、ナンが焼けるのを待つ間、今年になってから何度、豊平峡へ来たか思い出してみた。コロナ騒動に火が付いた2月は0回。外国人客が国内からほとんどいなくなったころを見越し、3月中旬と下旬に合わせて2回。4月上旬と中旬に2回。5月は連休明けの今回で1回。豊平峡に3月から5月にかけて5回というのは異例だから、支配人に指摘されるのも無理はなかった。

かれこれ30年になる豊平峡温泉とのつきあい

 豊平峡温泉との付き合いはかれこれ30年余に及ぶが、豊平峡の湯に入るのは、ふだんは年に5回前後。”効く”温泉であることは間違いなく、長い間お世話になってきた。本来なら毎月1、2度は通いたい湯である。20年ほど前に引っ越して来たわが家から、車でわずか10分程度なのだから。豊平峡温泉や定山渓温泉の湯に浸かるために、地下鉄駅から1分のマンションからわざわざ転居したのである。
 ところが、難点がひとつあった。人気がありすぎて、込むことだ。それでも思い立った時にすぐに出かけられ、体調を修正できるレベルの温泉が身近にあることは心強い。このレベルでは年に6回で十分である。

ホンモノの温泉力とスタッフの魅力が全国に拡散

 200万都市札幌の郊外に、これほど秘湯の雰囲気を醸し出し、また極上の湯を維持し続けているのは凄いことだ。だから、ついつい30年にもわたって全国紙、ローカル紙、雑誌、単行本等に繰り返し書いてきたのだった。そのうえ東京から新聞、雑誌、TV等のメディアがわが家に取材に訪れてくれるたびに、時間があればきまって取材後に豊平峡温泉に案内してきた。まるで自分の家の温泉を自慢するかのように! ちなみに、案内して一緒に入浴した場合は入浴回数にカウントしない。入浴法が異なるからである。

萌葱色の白樺と桜と奥の大露天風呂の一部(撮影:松田忠徳)

 もちろん豊平峡温泉に本物の温泉力があるからこそ、爆発的にその魅力が全国に拡散されていったことは間違いない。温泉にも増して、歴代のスタッフの魅力も大きい。自分たちの商品である温泉に絶対の自信を持っているだけに、皆明るくパワフルなのだ。それが入浴客に伝わらない筈がない。ウイルスの感染は願い下げだが、豊平峡温泉の感染力は凄いものがあり、瞬く間に海外にまで拡散した。

(この項、続く)

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