昭和の内科医のバイブルを記した西川義方博士

20年程前だったか、日本温泉協会の機関誌「温泉」に掲載された当時、日本温泉協会会長で「金太夫」の経営者だった小暮金太夫さんの文章を読んだことがある。
温泉資料コレクターとしての、西川義方博士と藤浪剛一博士に関するものであった。御両人、とりわけ西川義方博士は私が尊敬する温泉学の先達なので、その内容は鮮明に記憶している。

西川義方博士や藤浪剛一博士の名前は、医学や温泉学に係わらないかぎりなかなか接する機会はないに違いない。西川義方博士(1880~1968)は内科医、医学者で、東京医科大学教授等を歴任し、大正天皇の侍医を務めたほどの名医で、”海軍の神様”東郷平八郎も診た。その長男の西川一郎博士も昭和天皇の侍医を務めた名門の家系である。
西川義方博士は内科の専門書から温泉医学書、温泉健康法の啓蒙書、歌集まで約30冊の著書を著した。なかでも大正11(1922)年初版の内科医師向けの専門書『内科診療ノ実際』は、もっとも新しい改訂版で昭和48(1973)年の70版。昭和50(1975)年に発行された70版3刷のものを私も所蔵しているが、これで絶版となったようだ。半世紀余りも版を更新し続けるという、わが国の医学史上でも驚異的なロングセラーとなった。