俗界と霊界のわかれ‶冷水”で口をすすぐ
霊場恐山へのアクセスはふつう、南のむつ市経由で車かJR大湊線下北駅からバスで向かう。今回は私も、むつ市街地から車で北上するルートをたどった。
冷水峠に差し掛かると、ヒバの原生林の地底から湧き出る有名な水飲み場”冷水(ひやみず)”がある。昔、歩いて恐山へ向かう80歳の婆様でもこの水で喉をうるおすと、一瞬で背筋がぴ~んと張ると言われた地元では知る人ぞ知る湧水である。
若返りの石清水で、一口飲めば10年は若返るといわれている。この水で手を洗い、口をすすぎ霊場へ向かう。ここが俗界と霊界の事実上のわかれだという。
七ツ七坂を曲がり、湯坂を下りきると、辺りは一気に開けた。宇曾利山湖畔に出たのだ。極楽の白い浜である。湖の水は八つの川口から流れ出て、正津川に合流し、津軽海峡へ注ぐという。
森 勇男著『霊場恐山と下北の民俗』に次のように書かれている。

「この湖に一つの不思議がある。海と関係ない湖なのに潮の干満によって湖の水が増えたり引いたりする。
人の命は満潮時に生まれ、潮の引ける干潮時に消えてゆくという。古くから恐山では人の声がしたり、音楽がきこえてくると伝えられる。それは潮の水が引いている時なのであった。
この湖の彼岸が、いわゆる仏の彼岸なのである。人の終着点である。ここが死者のふる里であり、仏の里なのである。極楽の浜、仏の姿である」