新鮮な自然の色彩には、癒し効果&保湿力
温泉の種類にかかわらず、透明でない温泉のことを”濁り湯”と呼んでいます。
濁り湯は植物由来の有機質を含んだモール温泉(泉)を除くと、硫黄泉や鉄泉に含まれている成分が化学変化を起こして変色するケースがほとんどです。特に活火山が多い日本には硫黄泉が多いため、それだけ濁り湯の種類に恵まれています。ですから濁り湯は日本の温泉の個性といってもいいでしょう。
近年、都市近郊の新興温泉に水道水と変わりないような無色透明の温泉が急増し、その反動で濁り湯好きの温泉ファンがふえました。理由は「いかにも本物の温泉らしい」ということです。

確かに濁り湯は、私たちの疲れた五感を癒やしてくれそうです。香りはいかにも山の出湯(いでゆ)を髣髴(ほうふつ)とさせてくれますし、何よりも一目で”効き”そうで、インパクトがあります。日本人はどうしても”効く”湯を期待してしまいます。湯治が全盛だった昭和30年代頃までは「病気を治せないような温泉は温泉と評価されなかった」ことが、未だ影響しているのかも知れません。
湯の色を見るだけでも、TV、パソコン、スマホなどで酷使した目を十二分に癒やしてくれそうです。人工の色彩であふれる都会から抜け出して来た私たちには、大地から湧出した自然の色彩は新鮮に映ります。なにせ天然由来ですから。
天然の色は目に優しく、ココロの奧にまで届きそうで、素直に受け入れらそうです。乱れた自律神経のバランスを整える癒し効果はもちろん、保温力にも優れていますから、特に寒い季節には頼もしいかぎりです。
茶褐色の湯が減り、酸化された湯が増える?
実は濁り湯も地中では無色透明なのです。地表に湧出して、空気にふれることによって含有成分がエイジング(酸化)された結果、徐々に色が濃く変化します。わかりやすい例が有馬温泉(兵庫県)に代表される鉄分を含んだ茶褐色の湯です。
地下から湧き出してきた湯は、湯口から浴槽に注がれる際にはまだ無色透明に近い状態ですが、湯口から最も離れた湯尻付近では茶褐色が濃くなります。それが酸化されやすい露天風呂でより濃くなり、しかも何と手抜きをして、湯を取り換えていないほど濃くなるので、入浴者の身としては悩ましいかぎりです。
ただ注意したいのは、他の泉質の大半の無色透明の温泉がエイジングしていないのかといえば決してそうではなく、色の変化こそほとんどない場合でも化学的には酸化は進んでいます。ですから、濁り湯が酸化されているからレベルは低いということでは決してないということです。
昔は有馬温泉のような茶褐色の湯は比較的ありふれていたのですが、最近では珍しくなりました。原因は同じ湯を何度も使い回すろ過・循環湯がふえたせいでしょう。鉄分がフイルターでろ過されて無色に近くなるわけです。こうなると化学的にはほぼ酸化されたお湯になります。
濁り湯といえば、やはり乳白色

濁り湯の中でも、一番人気はやはり乳白色の湯でしょう。まるで贅沢な牛乳風呂に浸かっているようで、ファンタジーの世界そのものです。
乳白色の湯といえばいの一番に思い出すのが、乳頭温泉郷(秋田県)の「鶴の湯温泉」の池のような露天風呂です。有名な混浴大露天風呂の他にも、女性専用の広々とした露天風呂も息をのむような乳白色の湯をたたえています。
その露天風呂を取り囲むのが、江戸時代からという長屋の宿泊施設に使用されている建物で、風情があります。1軒の旅館がまるでミルク色の露天風呂を中心に、日本の古き良き山里の風景を再現している様は圧巻です。長い間、”秘湯ブーム”を席巻してきた立役者で、私は密かに日本の温泉の誇りと感じてきました。
萌黄色の早春、深緑の夏、紅葉の秋、そして意外にも深雪に囲まれた冬を含めて、四季折々の彩りという衣に乳白色の湯は似合うのです。同じ東北の蔵王温泉(山形県)などとともに外国人に人気なのは頷けるというもの。
冬期間は閉鎖されますが、蔵王で人気の「蔵王温泉大露天風呂」なども、野趣あふれた自然環境に立地する、硫黄泉の極めつきでしょう。
福島市内の高湯温泉(福島県)も硫化水素型の硫黄泉で、乳白色から青みを帯びたミルク色が素敵な、極上の泉質をもつ私の好きな温泉です。福島市営の共同浴場「あったか湯」は露天風呂専用で、美しい湯、泉質のレベルの高さ、そしてリーズナブルな入浴料で知る人ぞ知る、温泉好きの穴場です。
乳白色の原因は遊離硫化水素の含有量に左右されると言われていますが、その点では群馬県の万座温泉がピカ一で、湯煙の切れ目から見上げる秋の満天の星空はロマンティックそのもの。