”温泉教授”の毎日が温泉 第87回 心にも体にも効く、日本の伝統的な入浴法「むし湯」~現代版サウナ(下) 

群馬県、四万温泉の古文書が伝えるむし湯の入浴法

 わが国の伝統的な入浴法であるむし湯の形態は、別府・鉄輪(かんなわ)のむし湯の他にもまだいくつかあります。
 世の塵洗う四万(しま)温泉に残された古文書が伝えるむし湯の入浴法もそのひとつでしょう。

 *むし風呂
 群馬県の四万温泉は、かつては関東を代表する湯治場で、現在でも全国的には湯治客用の施設が多い方です。
 この四万温泉に、5代将軍綱吉の時代にむし湯があったことを伝える古文書が残されています。元禄7(1694)年創業の「積善館」に伝わるむし風呂もその流れをくむものと思われます。昭和5(1930)年に建て替えられた国の登録文化財「元禄の湯」のむし風呂のことです。
 四万温泉のむし湯の入浴法について、江戸中期の明和年間(1764~72年)に、平沢旭山は『漫遊文草』の中で次のように書いています。

 宿に着いた日はすぐにむし湯に入らないこと。最初の1日、2日は湯槽にのみ浴して、日に2、3度、頭から湯をかぶること数十杯、次第にふやして100杯くらいにする。
 3日目に初めてむし湯に入る。まず首筋に湯を注いで、心を平静にした後、きちんと座して、貴い人に対するようにする。眠ってはならない、暫く座する。
 もし眼をつぶれば眼によくない。臥せば、腹中のしこりやへきが動揺する。室を出たらふた口ほど湯を飲んだ方がいい。それから浴槽に入り、頭に湯をかぶる。
 浴後はすみやかに浴衣を着て、仮寝をしないようにする。
 何日もかけて遠方の温泉場まで歩いて出かけた時代のころのことの入浴法は興味深いものがあります。疾病を治癒したり、予防のための湯治が目的であったため現代とは異なりますが、参考になる部分は少なくありません。

箱湯、砂蒸し、オンドル浴……むし湯あれこれ

 *箱むし
 首だけを外に出して箱の中で体がむされる、いわば半むし風呂です。
 秋田県後生掛(ごしょがけ)温泉の箱むしが有名。むし風呂とくらべ長時間入浴できる利点があります。むし湯の入浴時間は一般に10~20分ですが、箱むしですと30分前後は大丈夫でしょう。

 *ふかし湯
 その代表は青森県の酸ヶ湯名物「まんじゅうふかし」で、「子宝の湯」とも呼ばれています。
 95度の高温泉が樋で流され、その上にかけた木の蓋が一見ベンチ風に2列並んでおり、服を着たまま腰かけていたり、腹ばいになったりしていると、体の深部までじんわり温まってきます。
 若返り効果の他にも、胃腸、婦人病、痔疾にも効果てきめんと、知る人ぞ知る評判のむし湯です。
 ふかし湯といえば山形県瀬見温泉街にある瀬見温泉共同浴場「せみの湯」もユニークです。かつては「痔むし」と呼ばれるほど痔疾専用のむし湯で知られていました。
 総檜造りの室内の床に直径4センチほどの穴が開けられていて、蓋をとるとそこから蒸気が噴き出てきます。床下に高温泉を流す簡単な仕組みです。
 この穴の上にタオルを敷いて、浴衣などを着たままお尻をつけて座ったり、仰向けに寝ると、患部に蒸気が当たり効果てきめん。源泉100%のままですから濃厚な含有成分と温熱効果の賜物です。腰痛や婦人病などに効果が知られています。

*砂蒸し
 九州にわが国独特の砂蒸しがあります。鹿児島県の指宿温泉がよく知られています。
 指宿の有名な「天然砂蒸し温泉場」は、1キロにわたる砂浜で、錦江湾の波に洗われた砂の中に横になり、最高85度のナトリウム・塩化物泉で温められた砂を女性の「砂かけさん」に首から下にかけてもらうものです。しばらくじっとしていると砂の熱と砂圧で、どっと汗が噴き出てきます。
 関節痛、腰痛、神経痛、筋肉痛などに効果的。ただし、心臓病や高血圧症の人は避けてください。

 *地むし
 地熱そのものに蒸される入浴法で、先にご紹介した玉川温泉の岩盤浴は、かつては「地むし」と呼ばれていました。
 岩手県須川高原温泉の「おいらん風呂」も蒸気が出る地面の上にゴザを敷いて横になる江戸時代から伝わる入浴法です。

 *オンドル浴
 「箱むし」でご紹介した秋田県後生掛温泉のオンドル浴も地むしの一種でしょう。
 後生掛温泉では地熱帯に「オンドル宿舎」と呼ばれる大部屋があり、温泉の成分を含んだ湿気で部屋が満たされています。入浴後はこの部屋で寝泊まりすることによって体温を上げ、自然治癒力を高めます。
 昔ながらの大部屋で、和気あいあいとおしゃべりしたり、助け合ったりして共同生活することで心身の活力を取り戻す。これも昔から続く根強い入浴法です。

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