
遠くかすむ耳納(みのう)連山を背景に、筑後平野をとうとうと流れる筑後川。長い旅の果てに有明海へ注ぐ九州随一の大河は、秋の陽光を浴びて白く照り返していた。
この筑後川の中流域に湯煙を上げる福岡の奥座敷、原鶴温泉。鵜飼(うか)いで知られる原鶴だが、近年、入浴客がふえている。
豊富な湧出量が維持する温泉の”鮮度”


「『湯めぐり帳(入浴回数券)』の利便性もありますが、原鶴の湯質が良くなった、との声をよく聞きます」と、「やぐるま荘」の大女将、師岡愛子さん。確かに資料を見ると、各宿が泉源を堀り直し、湯量が2、3倍になっているのだ。
「うちも最新の掘削技術で温泉を堀り直したところ、それまで45度、毎分80リットルの湧出量だったのが、48度、200リットルに上昇しまして-」。
温泉の生命線は”鮮度”である。鮮度を維持するには温度よりむしろ湧出量が大切となる。原鶴の湯質の良さが温泉ファンの間に広がり始めたのは、豊富な湯量による源泉かけ流しの”温泉力”と密接な関係があった。その立役者は3代にわたり一貫して”本物の温泉”にこだわってきた「やぐるま荘」である。
15軒ほどのホテル、旅館から成る、かつては歓楽型温泉街と目されてきた原鶴。各宿が自家源泉を持ち、もともと温泉にこだわっていたことが結果として幸いしたようだ。