”厳選”日本の湯治旅館 第1回 原鶴温泉「やぐるま荘」(福岡県朝倉市) アクセス良好、ハイレベルな湯質で「都会湯治」

静かな環境のなか、良質な湯にこだわる

「やぐるま荘」の玄関先(撮影:松田忠徳)
玄関先の「飲泉場」。温泉を飲める宿は珍しい。(撮影:松田忠徳)

 原鶴(はらづる)温泉といえば鵜飼いを思い浮かべる温泉ファンも多いに違いない。水面(みなも)に揺れるかがり火が幻想的な鵜飼いは、筑後川の夏の風物詩である。
 九州屈指の大河、筑後川の河畔に湯けむりを上げる原鶴は、かつては歓楽型の温泉とのイメージが強かったが、現在では閑静で落ち着いた保養型の温泉地の佇まいを見せている。大型ホテルもあるが、多くが10室前後の小規模旅館である。
 「小さな宿が多いのは、湯治場の歴史を背負っているからです」と、「やぐるま荘」の3代目、師岡哲也さんは説明する。 
 各宿が自家源泉(自前の源泉)を有していたため、温泉に対するこだわりがあった。温泉の原点は湯治ということは、”湯質”にこだわるということでもある。
 「かつての宴会型から、今は癒やし型の温泉が求められています。そのためには静かな環境と良質の温泉が何より大切になります」
 実際、創業当初から"源泉かけ流し"の良質の湯にこだわってきたやぐるま荘の湯は、全国でもトップ級だと私は高く評価している。  

広い岩風呂にそそぐ鮮度抜群の湯

「大浴槽」の湯口側(あつ湯)(撮影:松田忠徳)
源泉かけ流しの「大浴槽」(撮影:松田忠徳)

 体育館のように広い岩風呂にとびっきり上等なアルカリ性の単純温泉が注がれている。男性浴場の岩風呂は隣り合わせで二槽になっていて、湯口から注がれたあつ湯は隣の浴槽に流れ込む造りだ。加水をせずに適温にする工夫で、最初の浴槽は45度近くのあつ湯だが、隣の浴槽は広く、湯が浴槽から外に流れ出る湯尻付近では40度ぐらいだった。入浴者は好みの湯温を浸かる位置によって選べる。経営者の温泉に対する見識の高さに感銘した。
 温泉の生命線は鮮度である。これを科学的にチェックしてみた。「酸化還元電位(ORP)」という評価法で、いわば電子の濃度を測定することで、浴槽内の温泉の鮮度を確認する。
 湯口下でORPは-265ミリボルト(mV)、pH8.12、47.2度。最初の浴槽の湯尻(隣の浴槽に流れ出る位置)のORPは、-183mV(pH8.14、44.5度)と低い。
 一般的な目安として、ORPは低いほど優れた湯質と考えて良いだろう。ORP値がプラスになるほど酸化された湯となる。循環・ろ過された”非かけ流し”の湯は+400mVを上回る。したがって、槽内の湯のORPが-150mV以下を維持する風呂は極めて稀で、「やぐるま荘」は科学的に”鮮度抜群の湯”と評価できる。
 湯温の低い隣の広い浴槽ではどうか? 湯口から9メ-トルは離れていそうな湯尻で、-66mV(pH8.21,41.4度)だが、ぬる湯の浴槽の中央付近は-146mVであるから、ぬる湯全体で平均-100mV以下と考えられる。
 浴槽内のORPが-100mV以下の施設は全国でも5%未満というのが私の見立てだ。ましてやあつ湯の浴槽で-150mV以下だから,こちらは2%未満である。
 いくら源泉かけ流しの温泉であっても、浴槽全体でORPがマイナスを維持できる施設は数がかぎられる。「温泉分析書」からだけでは読み取れない「見えざる温泉の力を見る方法」なのである。
  このようにやぐるま荘の湯は単純温泉とはいえ、療養、湯治の湯としてもピカイチの”温泉力”を有していることを示唆している。分析書の成分だけでは湯質のレベルは評価できない。

抗酸化力の高い、湯治に”効く”温泉

客室(撮影:松田忠徳)

 透明度抜群のうえ、やわらかい美肌造りの湯だから、さぞかし女性にも喜ばれているに違いない。しかも玄関先にも”飲泉場”はあったが、浴場の湯口でも飲める。”抗酸化力”のある、つまり劣化(酸化)しにくい温泉なので、ゆっくりと噛むように飲むと、体内の活性酸素を除去してくれる。もちろん、入浴によっても然りだ。
 美肌のためにはぬるめの浴槽でリラックスして、副交感神経を優位にするといい。この種の湯は皮膚の水分量を増やしてくれることを、私たちは入浴モニタ-による実証実験で確認している。
 ぬる湯でリラックスするには庭の露天風呂がお薦めだ。浴槽の中央でORPは-175mV(pH8.12、40.4度)で、湯質はハイレベルであることが分かる。福岡県の温泉は名湯のイメ-ジから遠かったが、全国でトップ級の温泉を擁することを確認し、正直驚いた。 
 やぐるま荘のような抗酸化力のある温泉は持って生まれた”温泉の素質”といってもよく、湯治客はこのような温泉を見つけるにかぎる。これこそ、”効く”温泉なのである。
 館内は広いが、現在使用されている部屋は8室と少ないから、混むことも少なくマイペースで風呂に入れるのは嬉しい。貸し切り風呂もある。なにせ温泉の生命線の指標となる湯量は豊富で、この旅館だけで200人は収容できる分は優にある。

化粧品の原液に浸かる“美肌湯治”も

やぐるま荘の「植物園」に癒される(撮影:松田忠徳)

 館内には年中、ハイビスカスなど亜熱帯の植物が500種類も咲き競う150坪もの大きな温室がある。宿泊客が食事をするレストランも温室の一角にあり、湯治客に好評のようだ。
 2食付きで滞在するか、夕食は歩いて数分の温泉街に出るか、コンビニ食を利用するか、朝食(1000円)付きにするか、選択肢は多い。
 原鶴は福岡の”奥座敷”といわれてきただけに、博多方面からのアクセスにも恵まれている。そう、”都会湯治”の穴場なのである。
 女性なら「TSURU HIME(鶴姫)」ブランドの化粧水になっている原鶴の原液に浸かる”美肌湯治”というのも粋だろう。「やぐるま荘」の風呂は女性浴場の方が広い。

朝食(撮影:松田忠徳)

 原鶴温泉「やぐるま荘」
 ・住所 福岡県朝倉市杷木久喜宮1890-1
 ・電話 0946・62・0700
 ・1泊2食 10,000円~
 ・素泊まりプラン 2泊で9,074円(朝食は1,000円)
 ・入浴料金 600円(10;00~20:00、無休)

タイトルとURLをコピーしました