温泉エディトリアル 足立 真穂 第1回

 松田忠徳温泉教授とお付き合いするようになってから、何度「温泉」という文字を書いたでしょうか。そして、目にしたでしょうか。光陰矢のごとし。なんと、五年ほどのおつきあいになります。
 私は、出版社の新潮社で単行本を手がける編集者。温泉を愛するひとりの東京人でもあります。松田教授には、『朝青龍はなぜ負けないのか』というお相撲の本に始まり、週刊新潮で「江戸温泉物語」を連載をしていただき、『25点満点評価つき 温泉旅館格付ガイド』で温泉旅館についてまとめ、『江戸の温泉学』という選書で家康以来の温泉文化について説いてもらい、となんやかやと五年のあいだにお世話になっています。
 そんな関係で、「毎日が温泉」編集長である松田教授から、「温泉本を作る毎日を連載しておくれ」という依頼を受け、この原稿を書いています。もちろん温泉本を出しているだけの幸せな編集ライフを送っているわけではありません。ですが、そこは好きこそものの上手なれ。「自立的取材」と称して週末には温泉地を駆け巡っております。そんなところを松田教授は買ってご指名くださったのでしょう。
 昨年は「百湯入湯」を目標に走り回ってみました。まだまだ温泉初心者の私ですが、数をこなすことでお湯に対する感覚が鋭敏になるのではないかと考えてのことです。なんでもある程度の数を経験すると、見えてくるものがあるような気がします。結局、目標は半ばほどしか達成できませんでしたが、自分に相性のよいお湯がわかってきましたし、匂いや味の区別が多少はついてくる副産物もありと、とにかく発見があります。
 今は、松田教授に執筆いただいた「25点満点評価つき 温泉旅館格付ガイド」の374軒の旅館すべてのお風呂に入ろうと、がんばっています。
「え? 入ったことないのに紹介しているの?」というお言葉が聞こえてきそうですが、編集者というのは著者の方の原稿を本という形に編集して落としこむのが仕事ですから、当たり前といえば当たり前。 著者の松田教授は当然ながらすべてに足を運び、評価してくださったのですが、私は「脳内バーチャル温泉旅行」にとどまっていたわけです。バーチャルをリアルにすべく、プライベートで勝手に回っているというのが実際のところ。リアルに勝る温泉はないわけで、日々松田先生のアドバイスを元に奔走しております。
 このウェッブ・マガジンでもご紹介いただいたので、少し本について説明(宣伝!?)させてください。まず、松田教授の長年の経験から「人生で浸かったことのある」4500軒のうち421軒を抽出しました。そのすべてにファックスでアンケートを取って、結果を確認しつつデータにまとめ、松田教授の紹介文とともに「ミシュラン」のように格付けしてまとめたのです。最終的に374軒分を、ファックスでのアンケート結果と松田先生が実際に足を運んだ際の経験をもとに、お湯質と風呂で10点、料理5点、雰囲気・サービス5点、値段の適正さ5点の25点満点で評価しました。つまり、「温泉」設備を持っている全国1万5500軒のあまたある温泉から松田教授が選び抜いた374軒の宿が星つきのランキング評価順に掲載されています。ここで苦労したのは、源泉率や換水頻度、泉質まですべてを入れたことです。これはファックスと確認し、誤字脱字を直し、という作業に何晩か徹夜という憂き目にあいました。とはいっても、本が版を重ねて売れた今となっては、懐かしいくらいのものです。
 さて、リアル温泉の旅に話を戻しましょう。先日も週末に出かけてまいりました。その名(菜?)も名高き野沢温泉です。なんとここは市町村名に「温泉」とつけている唯一の温泉地だそうです。温泉を中心にすべてがまわっているユニークな街。日本の温泉地の中でも特異な存在です。次回で紹介させていただきます。

(2007年11月)

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