ブナ林を抜け、湯巡りを楽しむ秘湯

秋田県・田沢湖高原の奥地、乳頭山(1473m)山麓に、それぞれ自前の泉源を持った一軒宿が点在する乳頭温泉郷。鬱蒼としたブナの原生林に抱かれるようにひっそりと佇む湯宿。それが星霜を経てなお、往時の風情を保ってきたことから、日本最後の秘湯と注目され、秘湯ブームの端緒となったことは周知のとおりだ。
昨年(平成18年)は、記録的な豪雪の影響で客足が落ちたが、日本一予約が取りにくい温泉地としても知られ、週末ともなれば近傍からやって来る日帰り入浴客も加わって賑わいをみせる。
「今冬は、うって変って雪が少なく、お客さんの動きもいいですね。ただ、秘湯人気にいつまでも胡座をかいてはいられない。そう考えた若手が取り組んだのが、『乳頭こまち』というわけです」
地球のエネルギーを感じる「鉄泉池」
地球のエネルギーを感じる「鉄泉池」
乳頭温泉組合長で、休暇村田沢湖高原の支配人を務める八木次男さんはこう話す。流行に、そして本物に敏感な女性の目で我が温泉郷を見てもらい、反応を得ることでレベルアップを図るのが狙いの一つという。
特典は、7つの温泉巡りができる「湯めぐり帳」、入浴用品などのアメニティグッズ、秋田の菓子メーカー・榮太郎と共同開発したデザート、そして無料送迎バスの利用。乳頭温泉組合の青年部が、今年初めて冬期間に実施した女性限定の宿泊プラン『乳頭こまち』の内容だ。
湯巡りに関しては、冬季休業の宿があるため6つということになるが、これ以外のいずれの宿でも、このレディースプランは利用できる。
乳頭温泉郷の宿の中で最も古く、開業が元禄14(1701)年といわれる鶴の湯温泉は、県道から3kmほど奥まった場所にあるが、蟹場、孫六、黒湯(冬季休業)、大釜、妙乃湯、そして休暇村は細い県道を通り、また、山道を辿って入浴を楽しむことができる。それぞれの一軒宿が、付かず離れず絶妙な位置関係にあり、しかも硫化水素、硫黄、ラジウムなど、異なった泉質の湯を持っている。秘湯ながら、豊かな夢巡りが楽しめる。これこそが乳頭温泉の真骨頂だろう。
冬場は、足元が悪いことは否めないが、雪化粧を纏う深閑としたブナ林の清々しさは、この季節ならではのものだ。