庄助 
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温泉エディトリアル

第9回 あこがれの大牧温泉(前編)

 大牧温泉は、ここ数年間行きたくても行けなかったあこがれの宿。友人も話を聞いたことがあったらしく、ふたりで興奮しながら向かいました。
 ただし、「行きたくても行けなかった」には理由があります。
 そう、遠いのです。
『温泉旅館格付ガイド』でも紹介しましたが、ここは「船でしか行けない温泉」。
 現在の「大牧温泉観光旅館」がある温泉地は、800年ほど前に平家の落人が温泉を発見したことから始まったといわれています。その後、村の湯治場として栄えていたようですが、昭和5年に小牧ダムが建設されて村は湖底に沈み、宿の建物だけがダム湖と切り立った崖の間に残ったそうです。つまり温泉宿そのものがダムの中に孤立しているので、船に乗らないと行けなくなってしまったのです。
 その後、地元の人たちが愛した温泉をなんとか復活させようと、宿として再開したといいます。最寄の小牧ダム沿いの道路わきにある船着場まで山中温泉から2時間ほどかかりました。高速の砺波インターから、国道156号線を10キロほど五箇山方面へひた走ると、小牧ダムの大きな緑色の湖面が見えてきます。しばらくそのまま走っていくと、左側に船着場がありました。  宿に行くには、午後2時50分の最終便に乗る必要があったので、大急ぎで車を走らせました。大牧温泉に行く船は関西電力が運航しており、一日3便(11月15日から3月14日まで。春期も3便ですが、最終便は15時5分。夏期は5便あります)だけなので、乗り遅れると大事です。乗り遅れたらどうしらいいでしょうと宿に予約時に聞いたところ、「船をチャーターしてご自分でいらしていただくことになります」という返事だったので必死でした。
 車を船着場の駐車場に止めて、なんとか乗船。川のように細くなっているダムを五箇山の上流方向へ向かいます。紅葉がまだちらほらと残る山すそを眺めつつ、10分ほどすると「川」沿いに居並ぶ山々の頂の白さが目立ち始めました。12月半ばなのでまだ山のふもと部分に雪は積もっていませんでしたが、新年にもなると美しい雪景色となるそうです。紅葉に包まれた旅館の写真も見ていたのですが、雪景色はまた格別でしょう。四季折々の変貌もこの温泉の醍醐味であること、間違いありません。片道1400円ですが、宿に泊まらずとも船で遊覧するだけでも眺めが良いので楽しめます。
 平日だったせいか、お客は私たちも含めて7名。船でしか行けないのですから、乗船客数が今日の宿のお客さんの数と一致しそうです。30分ほど上流に遡り、宿の船着場に到着すると、笑顔の女将が私たち7名を出迎えてくれました。それにしてもさすがに寒い。風が強くなり、奥深い山にいることを痛感します。「寒かったでしょう?」と聞かれると一同皆素直に頷きました。
 「今日のお客さんはこの船の皆さんだけです。昨日は休日だったから100人以上いらして、てんやわんやでした」とのこと。後から聞くと、満室になることも珍しくないとか。私たちが出かけた12月半ばは、ちょうど紅葉が終わり、雪景色を待つ端境期なので空いているそうです。あたり一面が白一色になるころにはまた船も満杯になると、船長さんにも聞きました。それにしても、時期が時期だけに乗客数イコール客数という推理は当たっていたわけです。
 宿の建物は崖のきわに立っているので大きく見えますが、部屋は30室ほど。出迎えの女将の後をそのままついていきます。船着場から敷地内に入って少し歩くと、建物が見え……てきたのですが、驚きました。非常に近代的なのです。
「船でしか行けない」という秘境なので、木材で建てられた古民家のような建物を予想していましたが、コンクリートに木材をうまく組み合わせたモダンな作りです。私たちはせっかくなのだからと露天風呂付の部屋を予約しておいたのですが、部屋の内装から露天風呂のしゃれたデザインまで、どれも新しい設備で快適でした。孤立した宿なのにどのように建材を運んだのか、日々の食べ物はどうやって運んでいるのか。行かれた方は皆さん予想を覆されて驚かれることでしょう。ただ、横に小牧ダムの関西電力事務所があり、道路があったので、どこまでつながっているのかわかりませんが、もしかするとそれを利用するなど工夫があるのかもしれません。
 さて、この日本の秘境、宿のお味とお湯のほうはどうなのか。次回にご紹介いたします。


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