庄助 
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温泉エディトリアル 第5回

第5回 闘う温泉(前編)

 さて、数回にわたって野沢温泉のことを書いてきました。なぜかというと、お湯の「品質管理」にこれだけ熱心な温泉地があるということを紹介しておこうと思ったからです。
 松田教授も『これは、温泉ではない』(光文社新書)で言及しておられますが、平成14年には宮崎県下の温泉利用施設でレジオネラ菌による集団感染が起き、7名の方がなくなるという不幸な事件がありました。「温泉に行く」という場合、ほとんどの人が「のんびりしたい」「あったまりたい」といった、前向きな理由で行くものです。そこで自分の体に悪いことが起こるとは夢にも思わないのではないでしょうか。宮崎県の場合は、第三セクターの運営する温泉施設でしたが、温泉とは名ばかりで、そこはただの「銭湯」。しかも、ろくに管理されていない銭湯でした。石鹸でごしごしこすって汚れを落としても、とんでもない菌を背負い込んでしまってはどうしようもないですね。しかも、プレオープンの時点で感染者が出ているというのですから、救いようがありません。
 そもそもレジオネラ菌の病原性は弱く、普通の自然の中では病原性はほとんどないも同然だそうです。ただし、いったん大量発生すると循環式の給水システムや空調設備によって拡散してしまう。つまり、人為的な原因が背後に必ずあるということです。逆に設備やシステムに気をつければ防げるということも言えます。
 ところが、驚いたことに、宮崎県の事件後の厚生労働省の調査で、全国14地域で248施設を調べたところ、約6割でレジオネラ菌が検出されたとか。事件以前にも死亡例はあったのですが、ほとんどの方が「レジオネラ菌で人が死ぬ」ということを認識していなかったことと思います。事件後に露見しているということは、被害がマスコミ上の「数字」に現れていなかったというだけのことなのでしょうか。念のため付記しておくと、その後も、死者が出るには至らないものの、検出例は各地で相次いでいます。
 さて、宮崎県の事故の温泉施設が「循環ろ過方式」だったこともあり、その頃から「完全放流式」つまり「かけ流し方式」は安全であるという風潮も大いに高まったように思います。
 浴槽の給湯方式には、完全放流式(かけ流し)、循環方式、循環濾過方式、放流循環併用式(半循環)といったいくつかのやり方があります。その中で支持が高まっているのがかけ流し方式です・・・が、すべてのかけ流しが必ずしも清潔かというと、そうでもない場合もあります。というのは、供給できるお湯の量が増えず、変わらない場合は、単純に循環方式を止めるだけとなり、浴槽の衛生状態は悪くなる、という結果になるわけです。
 それでは浴槽の衛生状況を管理するのは誰か? 答えは、都道府県の条例による場合が多いようです。各条例を調べた記事を森社長に教えていただきました。平成16年12月に発表された、日本温泉協会事業部長の布山裕一さんの「都道府県条例から見る浴槽衛生管理の現状と課題」という記事(雑誌「温泉」平成16年12月号より)で、布山さんはご苦労なことにすべての都道府県にアンケート調査をしてそれを調べたのだそうな。
 大まかにその結果をまとめてみると(アンケートは平成16年当時)、ほとんどの都道府県で浴槽の衛生管理についての規定はありません。ただし、旅館業法において必要な措置を義務付けているところが多いようです。公衆浴場に関しては公衆浴場法によるようでした。京都府と熊本県は、特別に条例を設けているようですが、経緯がこれにはあるのでしょう。
 興味深い点は、他にもあります。「殺菌」について規定しているのは30都府県。そのほとんどが塩素剤の使用を基本とした消毒方法を規定しています。全国的にみて、浴槽水の「殺菌」の義務は明文化されておらず、また、換水や清掃に関しても明文化していない場合が多いようですが、細かい部分は「行政指導」に委ねられています。
 衛生状態を第一に行政が考えた場合、そういった細かい行政指導による「殺菌」はもちろん大切なことなのですが、本末転倒な現象もおこりえます。このコラムを毎回読んでいらっしゃるような方はご存知かと思いますが、国重要文化財指定の道後温泉本館の浴槽に塩素が投入されるようなことになってるのです。そうなってくるとかけ流しの温泉であっても塩素を使用するのは是か非か、どうでしょう?
 「清潔」とはいったいなんなのでしょうか?


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