庄助 
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創刊特別企画 編集長対談

事業ではなく家業という視点で地域を“経営”する

松田 私は日本の温泉宿、和の旅館は日本文化の集大成だと考えていて、その良さ、魅力を見直して残すべきだと思うんです。ところが今、日本的な部分が非常に揺らいでいる。時代に合わせて、いろいろなスタイルの宿があっても良いとは思いますが、経営者の側に、哲学や理念が希薄になっている感じがするんですね。

大西 同じようなことを、私も考えたことがあります。さまざまな情報があるなかで、移り変わる消費者の嗜好に振り回されている。そんな部分もありますが、一番の要因は“地域”に対する意識の低さではないかと。地域に根ざして、地域とともに生きていくという思いを持つと、経営観が変わるというか横道に逸れることはないと思うんです。

松田 ただ、地域への思いだけでは、事業は成り立たない……。

大西 確かにそうですが、それは事業----常に拡大路線で、宿の数もどんどん増やしていくのが経営、と考えるからで、私は自分の旅館経営を“家業”だと思っているんです。家業の大前提は、地域とともにそれこそ何世代も根づいていくこと。私たちは今、阿寒以外にサロマ湖鶴雅リゾート、網走グランドホテルと展開していますが、現地には私の娘が居を構えて運営に当たり、阿寒は私が住んでみていく。こうして、あくまでも宿を展開する地域に根ざすことを考えると、おのずと何十軒も経営するという話にはならないわけで、その意味からも家業なんですね。そして盛り上げていく。特に観光地ではその視点が必要だと思っています。

松田 私自身、洞爺湖温泉という北海道を代表する観光地で育ち、観光に関わる動きをみてきているなかで、大西社長のように地域という捉え方ができている経営者は非常に珍しいと感じるのですが、確か以前に“観光づくりは地域づくり”ということをおっしゃっていますね。私も、これこそがまさに21世紀型だと思います。大分県の湯布院も、街の雰囲気がいいから人気を博したし、富良野なんかもそうですね。農家の方たちが生業として耕していた風景、地域の風情に人々は惹かれたわけです。

大西 そういうことを、地域でもリーダーシップをとる宿なり施設が率先して仕掛けていく。地域に投資するという考えが必要だと思います。たとえばの話ですが、1億円の資金を旅館の改装費として使っても、部分的にきれいになったな、という程度しか変えられない。大きな効果は期待できません。けれども、その1億円で街づくりのための基金をつくってみたらどうでしょう。地域を変えていくための原資です。きっと人が集まり、アイデアが出てくる。やがては行政をも動かして、街の形がきっと、魅力あるものへと変わっていくと思うんですね。

松田 素晴らしい発想ですね。そんな方向で、何か具体的な動きは出てきているのですか?

大西 実は、阿寒の自然環境の保護育成に取り組んでおられる前田一歩園財団から昨年、街づくりのための基金を設立したいという申し出があったんです。これは、私たちにとってとても大きなエポックで、前田一歩園財団が核になれば、周辺の企業も動くし、行政にもきっと動きがあるはずです。今年(平成19年)は、阿寒湖温泉が変わっていく元年だと思いますね。阿寒湖畔は、その原生林の豊かさから“日本で一番空気が濃いところ”などと呼ばれます。それほどの森があって、山があって、湖もある。そして、この自然と共に暮らしてきたアイヌの人たちの文化がある。地域にいる私たち自身が街を“経営”するという気持ちになれば、全国にあるどの観光地にも伍していける、凌駕できると思っています。それだけのものを、阿寒湖というのは持っているんですね。

おおにし まさゆき  昭和30年(1955年)釧路市生まれ。東京大学経済学部卒業後、三井信託銀行を経て実家が経営する(株)阿寒グランドホテル入社。昭和64年(1989年)より代表取締役社長。平成15年(2003年)に、観光振興の功績者を認定する観光カリスマ(内閣府・野農林水産省などが認定)に選ばれる。

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